40年以上前に廃校になった小学校。
幾度の解体の危機を免れて、今も建っている木造校舎へ。
福島県昭和村にある喰丸小学校。
日本の原風景のような静かな山里に、
古い木造校舎が、廃校後40年以上経った今も残っている。
レトロな雰囲気に惹かれて、何度か訪れている場所。
校庭には樹齢120年を超えるといわれる銀杏の木。
道を走っていると、まずこの大きな木に目が止まって、脇にある校舎に気づく人もいるだろう。
昭和12年に建てられた木造二階建ての校舎。
冬は積雪のため、2階を全面使って体育の授業を行っていたそう。
最盛期には100名を超えていた生徒数もしだいに減少し、昭和55年(1980年)廃校となった。
不要になった校舎は取り壊されるのが世の常。
しかし、この校舎は今も残っている…
それは、いくつかの「運」と、残したいという「熱意」があったから。
廃校から12年後の1992年、文化人類学者・故 山口昌男氏が、
この校舎を「田舎からの文化情報発信基地」にしようと声をあげ、「喰丸文化再学習センター」として開所。
学識者、作家、芸能関係者などのシンポジウム・講演会や、コンサートや芝居などのイベントなど、
およそ14年間利用された。
二度目の解体危機回避 〜映画「ハーメルン」〜
2009年、映画の舞台となる廃校を求めて全国を探し歩いていた坪川拓史監督が、
この喰丸小学校にたどり着く。
この頃、建物の損壊は激しく、部分的な修復で済むような状況ではないため、すでに解体が決まっていた。
しかし、監督の申し出により、取り壊しは撮影が終了するまで延期することに決定。
撮影は、東日本大震災による延期もあって完了まで3年を費やした。
2013年に公開された映画「ハーメルン」には、西島秀俊、倍賞千恵子をはじめ、
坂本長利、風見章子、守田比呂也、水橋研二、小松政夫などが出演している。(敬称略)
三度目の解体危機回避 〜人々の思い〜
撮影終了後に取り壊されることが決まっていた校舎だったが、
映画の反響もあり、校舎の保存と活用を求める2,384名分の署名が提出されるなど、
校舎の存続へ向けた動きが大きくなっていった。
映画公開による効果を見極めるとして、解体は一旦白紙になった。
そして存続へ 〜
校舎をどうするべきか、村に住む高校生以上へのアンケート調査が行われた。
村の予算や人口を考えると、維持管理するための負担を次の世代に背負わせたくない…
古いものに手をかけ大事にすることは村の誇り…
観光資源として村の活性化に役立つのでは…
村民それぞれに村の将来への思いがあって意見は拮抗。
解体を求める意見がやや上回ったが、その後も懇談会などで意見の聞き取りを行い、
最終的に「存続させて村の活性化に繋げていく」ことに決まった。
とはいえ、存続させていくためには、改修工事は必須。
それも、この歴史ある佇まいを残したままでなければ意味がない。
費用の一部をクラウドファンディングで集め、古い校舎の趣を可能な限り残す大掛かりな工事が行われた。
そして、以前の印象をほとんど損なうことなく生まれ変わった。
昭和村の交流・観光拠点として利用されるようになった喰丸小学校。
この日はイベントが催されていて、休日ということもあり多くの人で賑わっていた。
昔は駐車場もなく、人の気配がほとんどない静かな場所だったが、
この日、校舎には人の声が響き、活気に満ちていた。
そこに通っていたわけでもないのに、なぜか懐かしい気持ちになれる木造校舎。
学び舎としての役目を終えても、今も残っている校舎は全国にたくさんあるだろう。
それは、「残っている」のではなく、「残してくれている」ということ。
感謝の気持ちを持って、これからもそんな場所を訪れてみようと思っている。